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ノスタルジア

「輪るピングドラム」の二次創作小説ブログサイトです。 公式の会社・団体様とは無関係です。

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SS5

こたつ晶苹。

高倉家にあるのは小さなストーブだけなので、冬も押し迫ってくると寒さは深刻な問題だ。
二人の兄はなによりも妹優先なので、ストーブは彼女の部屋に置かれる。
ではリビングはどうするかと言うと、こたつを設置して暖をとる。
だが結局、陽毬もリビングにいることが多く三人でこたつに入るので、あまりストーブの出番はないと言ったほうが正しい。
先日、10度を下回ったことに耐えられず、今年も晶馬はちゃぶ台にこたつを設置した。
「わあ、こたつだあ!」
それに目を輝かせたのは、高倉家に頻繁に出入りするようになった苹果だった。
「もしかして実物見るの初めて?」
晶馬がモダンなデザインの苹果の自宅を思い浮かべて問うと、苹果がぶんぶんと首を縦に振った。
「ね、ねえねえ入ってもいい?」
きらきらという擬音がするかのように期待に満ちた眼差しで苹果が見つめてくる。
どちらにしろ、今日はここで宿題を片付けて、冠葉と陽毬が帰ってきたら夕飯を食べてから苹果のことを送っていくのだ。
寒いこの家ではこたつに入らないと集中して勉強もできない。
晶馬はそんなに珍しいのかな、と思いながらうなずいた。
「うん、どうぞ。お茶淹れるね」
晶馬はこたつのスイッチを入れる。苹果がいそいそとこたつの中に足をいれるのを見ると、台所に引っ込む。
苹果は子どものような声で「うわ、本当にあったかくなってきたー!すごい!」とはしゃいでいる。
晶馬にとっては小さな頃から慣れ親しんだものなので、苹果の反応が新鮮だった。
お茶とお菓子を持ってちゃぶ台へ運ぶ頃には、苹果はこたつの魅力にすっかり囚われたらしい。ゆるみきった顔をして肩までこたつ布団の中にうずもれている。
「うわあ、これあったかーい。いいな、こたつ欲しいな」
「荻野目さんの家にこたつがあったらすごい違和感だけどね……」
ほら、宿題しよう、と晶馬が声をかけて、二人で教科書や問題集、ノートを広げる。
しばらくカリカリとシャープペンを走らせる音だけが響く。
「晶馬くん、ごめん、靴下脱いでいい?足だけ暑くて」
「うん、いいよ」
断らなくてもいいのに、こういうところ育ちがいい女の子だよな。
晶馬はそんなことを考えながら何気なく返事をした。
だが、苹果がこたつから足を出してハイソックスを脱いでいる様子がちらりと目に入り、妙な気分になる。
いやいやいや、何だこれ。ただ暑いから靴下を脱いでいるだけであって、何も感じることなんかないはずだろ。
苹果は自分の鞄のわきに靴下を置くと、再びこたつに足を差し入れた。その爪先を凝視してしまっていたことに気づき、晶馬は意味もなくぱらぱらと教科書をめくった。
苹果は何も気にせず再び宿題に取りかかっている。
晶馬はこれもまた意味もなくお茶を口元に運んだ。
さっさと宿題を終わらせようと問題集をじっと見つめるが、さっきまで解けていたはずの数式が意味のわからないものに見えてきた。
ノートに書いて、解こうとしてどうでもいい書き間違いをしたり、最後まで解いたと思えば解答と違って消す。
一問にやたらと時間がかかるようになり、お茶を口に含むペースが早くなる。
そのうちついにお茶の中身がなくなってしまった。ポットは台所だ。
「荻野目さんも、お茶」
おかわりいる、と尋ねようとした晶馬の言葉が途切れた。
晶馬の目の前の苹果が、船を漕いでいたのだ。晶馬は固まってしまった。
今動くと、苹果が起きてしまうかもしれない。
そしてなんだか、出て行くのももったいない気がしていた。
晶馬はもうお茶を飲むこともできず、かといって苹果を起こしそうで動くことも出来ず、問題を解く集中力もなく、動けなくなってしまった。

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