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ノスタルジア

「輪るピングドラム」の二次創作小説ブログサイトです。 公式の会社・団体様とは無関係です。

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人魚姫の妹

苹果と葵。おそろい。
何かご都合主義が起こって21話くらいから別ルートに入り運命の乗換えはせずにでも陽毬ちゃんマリオは助かって、晶苹はお付き合いを始めたよという設定。



 鳴り響いた鋭い音に、苹果は肩をびくつかせた。慌てて携帯を取り出す。
「……公衆電話?」
 画面に表示された言葉を見た途端、苹果の口から「今時?」という言葉が飛び出す。
 最近きな臭い自身の身辺に思いをはせると、取るのをためらわずにはいられなかった。だが、誰か知人友人からの緊急のSOSである可能性もある。苹果はしぶしぶながら画面に触れた。
「もしもし……」
 すこし緊張気味に問いかけると、間をおいて、全く予想していなかった舌足らずな声がした。
「おぎのめ、りんごさんですか。おはなししたいことがあります」



「彼氏さんと、わかれてください」
 そういって頭を下げた彼女の後で、ぴょこりと結ばれた髪の毛が合わせて下を向いた。
 苹果は顔をしかめると、言った。
「顔をあげて、葵ちゃん」
 彼女はその言葉に従ってゆっくり顔をあげた。陰に隠れて彼女を見たことはあったが、こうして向かいあうのは初めてだった。
 苹果の父の、再婚相手の連れ子。義理の妹にあたる葵という名前の彼女は、意志の強そうな瞳を苹果に向けてくる。
 苹果は公園のベンチに座り、彼女は立っているため、視線がまっすぐに合うのが気まずい。苹果は逡巡するように腕を組むと、聞きやすいことから尋ねることにした。
「まず質問させて。私の番号はどうやってわかったの?」
「パパの……」
 そう言ってから、葵は彼女の「パパ」は苹果にとっても「パパ」であることを思い出したらしい。ちょっと考えたあと、結局そのまま話を続ける。
「パパのスマフォをしらべました。ごめんなさい」
 でも、どうしてもお話したかったから。
 その声色には決意の色がにじんでいて、苹果は心底気が滅入った。
 最近自分の身の回りで起こっていることと、冒頭の葵の言葉で彼女の用事はだいたい察しがついた。
 葵は見たところまだ小学校の低学年だ。その年で、大人の携帯を盗み見し公衆電話から電話をかけてくるその大胆不敵さと行動力に驚いた。血はつながっていないのだが、どこか自分に通じるものを感じてしまう。
 それだけ、葵にとって重要なことだということなのだろう。
 苹果は困ったなあ、と心の中で呟き、やがて重い口を開いた。
「そこまでして来てくれたところ悪いんだけど……ごめんなさい。それはできない」
 さっと葵の顔色が変わり、苹果を責める視線になる。苹果はそれを受け流すと立ち上がり、彼女を見下ろす。
「私は絶対、晶馬くんとは別れない」
「どうして? パパにも、葵のママにも……それから、あなたのお母さんにだって、メーワクかかるじゃない。それでも?」
 葵は感情が高ぶったのか、使い慣れない敬語はあっという間にどこかに行ってしまった。
 苹果が首を振ると、最初の殊勝な態度もどこへやら、苹果をきっとにらみつけるとまくしたてた。
「パパがかわいそうだとおもわないの。やっとあたらしい家族ができるっていうところにじゃまがはいって……ママ、まいにち泣いてるよ。やっとしあわせになれると思ったのにって。あおい…葵だって、パパがジュギョウサンカンにきてくれるの、たのしみにしてたのに」
 それでも苹果の態度が変わらないと知ると、葵は目に涙をいっぱいためて叫んだ。
「パパをちょうだい! 葵と、葵のママにちょうだいよ!」
「……あげる、って言ってあげられるような、簡単な問題じゃないから困っているのよ」
 きっかけは、ひとつの記事だった。
 三流のゴシップ雑誌に載った記事は、しかし、その内容の衝撃と話題性から瞬く間に世間に広まった。
『現代版ロミオとジュリエット!? 十六年前のあの事件の加害者家族と被害者家族のラブストーリー』などという、寒気がするほどくだらない見出しの記事の内容は、苹果と高倉晶馬に関するものだった。
 十六年前というと世間の人々がすぐに思い出す事件の容疑者である高倉剣山の息子と、被害者の一人である少女の妹が恋人関係であるということが面白おかしく書かれ、モザイクがかかった写真も見る人が見れば晶馬や苹果が通う高校がわかってしまうものになっていた。
 ちょうど大きな事件がなかったことも災いし、晶馬と苹果は記者に追いかけられる日々を送っていた。被害は友人や母親にまで及んでいる。
 加えて、見も知らない人々からの攻撃も起こった。家にかかってくる電話で罵倒され、どこから流れたのか変な内容のメールまで送られてきて、アドレスを何度も変えるはめになった。
 自分でこれなのだから、晶馬のほうにはもっと被害が出ているだろう。
 しばらく直接会っていないが、冠葉はほとぼりがさめるまで夏芽の家に身を寄せ、陽毬は池辺の叔父の家にかくまわれているらしい。
 誰もいなくなるのも不自然だからと、周囲の反対を押し切って晶馬は一人で高倉家で過ごしている。
 彼の心中を考えると胸がつぶれそうだった。
 だが、苹果の周りでも問題が起こった。父である荻野目聡は今目の前にいる葵の母と再婚目前だったのだが、今回の騒動で婚約を一旦白紙に戻したらしい。
 葵の母や、葵にまで被害が及ぶことを恐れてだろう。
 苹果は申し訳なくなり父に謝罪をしたが、父は首を振った。
「苹果は、僕が知らないうちに大人になってしまったからな。これくらいの迷惑はかけてくれないと、父親として物足りないよ」
 そう言って、無理しているとわかる笑顔で笑った。
 母も、苹果の意思を尊重してくれている。本当にありがたかった。
 しかし、まだ幼い葵からすれば、せっかくできるはずだった家族を取り上げられたようなものだ。納得がいかなくてここまで来たのだろう。だが、苹果はさらさら譲る気はなかった。
「あなたにとってパパが大切なように、私にとっても晶馬くんは大切な人なの。だから別れられないわ」
 葵は思い通りにならないことに、悔しそうに唇をかんだ。そして、苹果が何か言う前にすうっと息を吸うと怒鳴った。
「サイテー! 自分のことばっかり! だからあなたは、パパと家族をつくれなかったんだ!」
 葵の甲高い声が響いた。
 言ってしまったあとで、はっとしたらしい。さすがに言い過ぎたと思ったのか、葵はおろおろと視線をさまよわせる。
 だが、苹果は全く怒りを感じなかった。その通りだと思ったからだ。
「……変だね」
「え?」
 苹果の言葉に、葵の視線が再び苹果に定まる。
「血なんてつながってないのに、姉と妹だからかな。あなた、私にそっくりよ」
「なにそれ。葵、あなたみたいに自分勝手じゃないもん」
 むくれるように年相応に頬を膨らませた葵に、びしりと指をさす。
「よく自分が言ったことを逆にして考えてみて。あなたの言葉通り私が晶馬くんと別れたとする。あなたはパパを手に入れてめでたしめでたし? 私と晶馬くんの気持ちは無視なの?」
 葵はうっとうめき声をあげる。
 苹果は呆れた目で彼女を見つめた。葵は、桃果になれば家族を取り戻せると思っていた頃の自分そっくりだ。多蕗やゆりの気持ちを考えもしなかった自分に。
「ねえ、葵ちゃん。人魚姫はすき?」
「え、なに?」
「いいから」
 葵は戸惑いながらも話が自分に不利な方向からそれると考えたのか、真剣に思考を巡らす。
「……人魚姫は、キライ」
「どうして?」
「だって、けっきょくなにも手に入れられずにしんじゃうなんてバカみたい」
 子どもらしい答えに苹果はくすくすと笑う。
「そうね。でも、ほしいものがあるときには代償を支払わなくちゃいけないの。その覚悟が、あなたにある?」
 葵は首を傾げた。意味がわからなかったらしい。
「王子様を手に入れられるのはね、その覚悟がある勇敢なお姫様だけなの」
 あなたにはそれがあるってこと、と葵は憮然と言う。よくわからないなりに、苹果の伝えようとしたことを呑み込んでくれたらしい。
 苹果は頷いた。そしてね、と言葉を続ける。
「あなたも覚悟してくれるなら、王子様を手に入れられるわよ」
 葵の首を傾げる角度がさらに深まった。
「手に入れるって……どうやって?」
「私とあなたでパパを説得して、あなたのママと結婚させるのよ。もちろん私は晶馬くんと別れない。だから、さらに記事を書かれる可能性はあるわ。記者があなたやあなたのママのところにも行くかもしれない。変なことを言われたり、変なことを聞かれたりして、嫌な思いをたくさんするかもしれない。だけど、それでも平気だよって言わないとあなたとあなたのママとパパは家族になれない。その覚悟があるなら、パパをパパにできるわよ」
 ゆっくりと説明する苹果の言葉を、葵は食い入るように聞いていた。どうする、と苹果が問いかけると、戸惑ったように手を開いたり閉じたりする。
「どうするって……パパにはパパになってほしいけど……変なことを言われるのは……でも……」
 途方にくれたようにつぶやいた葵は、うろうろとあたりを歩きだした。
 やがてぴたりと足を止めると、救いを求めるように苹果を見つめた。
「……どうしてあなたはかくご、できるの」
「大切なひとを救いたかったから。桃果みたいに」
「ももか?」
「私のお姉ちゃん。こういう字を書くの。桃に、果実の果。私の名前と果がおそろいなの」
 苹果は枝を拾うと、公園の地面に姉の名前と自分の名前を書いた。
 それを見ていた葵がぽつりとつぶやく。
「……いいな」
「何が?」
「葵、ひとりっ子だから。ひとりだから。葵にもお姉ちゃんがいれば、かくご、できるのかな」
 葵の言葉に、苹果はにっこりとほほ笑んだ。
「じゃあ大丈夫だ」
 先ほどの自分の名前の下に、葵、と書くと、名前の上部を指さした。
「ほら、私とおそろい」
「え?」
「くさかんむり」
 苹果の言葉に、葵はじっと苹果と自分の名前を見つめると大きくひとつ、頷いた。

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