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ノスタルジア

「輪るピングドラム」の二次創作小説ブログサイトです。 公式の会社・団体様とは無関係です。

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SS7

晶馬。
元ネタは昔のドラマ。

「うわ、すごいほこり……!」
晶馬は咳き込みながら、ハタキを構えた。
午後の強い日がまぶしいほどに高倉家の中にあふれている。
くたびれたティーシャツと短パンという恰好をした晶馬は、ごそごそと物置の奥に入っていく。
絶好の家事日和の陽気に、晶馬はここぞとばかりに家の中の掃除をしていた。だが、掃除だけが目的ではなかった。
よし、と気合をいれてほこりに立ち向かう。はたきをかけ、雑巾でふいていく。晶馬は一人だとやっぱり大変だなとつぶやいた。
冠葉と陽毬は池辺の叔父の家に行っている。
両親の失踪後、子どもだけで暮らしていくことを主張して、今のところ叔父は聞き入れてくれている。
その代わり、たまに顔を出すこと、逆に叔父が様子を見に行くことを承諾するという条件つきだった。
そのために晶馬以外の二人はでかけていったのだが、今日に限ってはそれはカモフラージュであり、本当の目的は家に残った晶馬のほうにあった。
陽毬の目がないうちに、両親の持ち物を整理するためである。
適当に積まれた段ボールを開けて、中身を確認していく。
両親の失踪が分かった頃、泣いてばかりいた陽毬を励ますため、彼女の部屋を改造した。
そのとき晶馬は警察が調べて返却してきた両親の残したものは、腹立ちまぎれに適当に物置に押し込めたのだ。
だが、子どもだけで暮らしていくのは大変だった。叔父の援助もあるが、とにかく金がない。
そこで両親のもので売れそうなものは売ってしまおうと晶馬が提案した。陽毬はショックを受けるだろうから、知らぬ間にやってしまおう、と言った。
冠葉は渋ったが最後は折れた。
晶馬はそれが不思議だった。諸手をあげて賛成すると思っていたのだ。
晶馬にとって、両親はとんでもない事件を起こした犯罪者で、そのあとも何食わぬ顔をして生きてきて、そして突然姿を消した身勝手な存在だ。
恨みこそすれ、冠葉のように今も思慕を残すことなどない。
今日も、陽毬だけを池辺の家に行かせ、その後適当に言い訳をして自宅に戻り、二人で整理しようと言ったのだが、冠葉は首を縦に振らなかった。
陽毬をひとりにするのは心配だから。そんなことを言っていたが、両親の持ち物の整理に気乗りしていないのは明らかだった。
「ま、掃除が嫌だっただけかもね」
晶馬は独り言をつぶやくと、ひとつひとつ検分を始めた。
腕時計や万年筆など金目のものからどうしようもできないような肌着なども出てくる。
あとで適当に切って雑巾にでもしよう、と考えながら次の箱に手を伸ばす。
中身をあけていき、換金できそうなものとそうでないものに分けていく。
できれば陽毬と冠葉が返ってくる前に余裕をもって片づけを終わらせ、今日のうちに質屋にまで行ってしまいたかった。
けっこうな時間をかけ、少し視界が暗くなってきたかという頃、晶馬は最後の段ボールに手をかけた。
開けたとたん、華やかな柄が目に入る。
「やった、着物だ!」
おそらくは母のものだろうが、なかなか金になるだおう。晶馬はほくほくと段ボール箱からそれを取り出した。
そのとき、ばさりと音がした。
何かが落ちたと思い、床を見遣り、晶馬は目を見開いた。
着物を置くことも忘れ、じっと見つめる。どうすればいいかわからなかった。
それは、通帳だった。
再びものが落ちる音がした。着物や帯が床に散乱していたが、もう晶馬の意識はそこにはなかった。
震える指をそっと通帳に伸ばす。カバーの中に、通帳が重なって入っていた。
上のものには高倉冠葉様、と書いてある。
カバーから取り出してめくってみると、冠葉が高倉家に来た頃から少ないが月毎に決まった額が積み立てられていた。晶馬たちが余裕で一年は暮らしていけそうな額が書かれていた。
晶馬は息をつめたまま、その数字をじっと見つめた。
もう一冊を見ると、高倉陽毬様とある。めくると、冠葉より若干多い額が入っている。高倉家の一員となった日が早いせいだろう。
これだけあれば、しばらく先の心配はしなくてよくなる。
だが晶馬の胸に浮かぶのは安堵でも歓喜でもなく、名前のつけられない波打つような衝動だった。
ふと床を見ると、少し離れたところに、まだ落ちたものがあった。
もう一冊の通帳だった。
晶馬は予感を感じ、それを拾うか迷った。だが、結局つかみあげてそこに書かれた名前を確かめる。
高倉晶馬様。
めくったそこには、冠葉や陽毬よりも倍近い額が記帳されていた。
「……っ!」
晶馬はその通帳を投げ捨てようと手を振り上げた。
だが、そこで身体は止まってしまった。
晶馬の頬には熱い涙が流れていた。
「こんなもの……!」
絞り出すようにのどから声がこぼれた。けれど、力なく手はたれてしまう。
いつの間にか日が落ちて、暗くなった家の中で、晶馬は声をあげて泣いた。

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