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ノスタルジア

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ひとりなんかじゃない

陽毬。いつだって、ひとりなんかじゃない。

目を開いてみると家の中の風景がぼんやりと輪郭が曖昧だった。暗いようで、それでいて淡い明りに包まれているようだ。
なんだろう、と思いつつ寝返りを打とうとして、不意に足が布団からはみ出した。あまりに寒くてすぐに引っ込めるが、意識は一気に覚醒する。もしかして。
がばりと身を起してふすまを開いた。
「冠ちゃん!晶ちゃん!雪だよ!」
居間で寝ていた二人の兄たちが陽毬の大声にぱちりと目を開いた。
陽毬がカーテンを開けて庭を見ると、案の定、空から白い綿のような雪が次々と降り注いでいる。
「おお、本当だ」
「これ、積もってるんじゃない?」
二人の兄も起きてきて、陽毬の背後から庭を見つめた。
庭は晶馬の言葉通り、真新しい白いじゅうたんがひかれたようになっていた。
陽毬はわくわくする気持ちが抑えきれず、自分の部屋に取って返すとパジャマのままコートと手袋を身に着けた。
陽毬、なにしてるの、という晶馬の声に、陽毬は満面の笑みで振り返った。
「雪だるま作るの!」
こんなに雪が降るのは年に数回あるかないか、しかも昼になって気温が上がれば溶けてしまうかもしれない。この機会を逃す手はない。
風邪をひくよ、すぐごはんにするから、と口うるさく言う晶馬の脇をすり抜けて、陽毬はさっさと庭に出てしまう。
「俺たちも作ろうぜ、晶馬」
陽毬に甘い冠葉がそう言うと、二対一で晶馬に反論の余地はない。
本当のところ、晶馬もうずうずしているのが陽毬にも見てとれた。
結局、三人で庭に出て雪だるまを作り始める。最初は小さな雪の塊が、雪の上に転がしていくとどんどん大きくなっていく。
冠葉は一番大きな雪だるまを作る、と言って庭の隅々まで転がしていく。晶馬が雪がなくなる、と抗議の声を上げた。
「僕は一番きれいな球のかたちにできるようにしよう!陽毬は?」
「私は一番かわいい雪だるま!」
陽毬は頭の大きさになった雪の塊に、ラッピングについてきたちいさなリボンをつけた。かわいいね、と晶馬が微笑む。
ほどなくして、高倉家の軒先には三つの雪だるまができあがった。
いびつだが一番大きな冠葉の雪だるま、丸く形のよい晶馬の雪だるま、小さいがリボンでおしゃれをした陽毬の雪だるまが並ぶ。
三人でそれを眺めて、悦に浸る。なんか個性が出るよな、と言った冠葉の言葉に笑いあった。
陽毬は二人の兄を振り返ると言った。
「誰のが一番最後まで溶けないで残るか競争ね!」
冠葉と晶馬が微笑んでいる。
だが、陽毬の言葉にうなずいてはくれない。陽毬は急に不安になって二人に近寄ろうとした。だが、足が動かない。口が開かない。
ベルトコンベアに乗せられて運ばれてしまうように、二人の姿が遠くなる。
待って。待って。
名前を呼ぼうとして、さっきまで普通に呼べていた二人の名前が出てこないことに気がつく。
どうして、と思った瞬間、奈落の底に落ちていくような浮遊感に襲われた。



目を開いてみると、家の中の見慣れた風景が目に入った。ぼんやりとしたまま起き上がると、肌寒さを感じてカーディガンを羽織った。
ふすまを開くと、叔父も叔母もでかけてしまっていた。
カーテンをそっと開いて、軒先を確かめる。
そこには、リボンをつけた雪だるまがひとつだけ、ぽつんと立っていた。
「……そうだよね」
その雪だるまは、朝、降り積もった雪にはしゃいで、陽毬が作ったものだった。ひとつしか作っていないのだから、目の前の光景は当たり前だ。
「変なの。当たり前なのに。なんでこんなに寂しいんだろう」
ぽつりとつぶやいた言葉は雪に吸い込まれるように消えていく。
陽毬が動けずにいると、呼び鈴が鳴った。
慌てて玄関へと走り、戸を開く。
「陽毬ちゃん!今日はシーフードカレーにしようかと思ってね……」
玄関先に立っていたのは私服にマフラーを巻いた苹果だった。休日だが陽毬も苹果も家族が家にいないということで、お昼を一緒に食べようと約束をしていたのだ。
うきうきとした声で話出した苹果だったが、陽毬の顔を見た途端表情を強張らせた。
「陽毬ちゃん。どうしたの?」
「苹果ちゃん……」
陽毬は耐え切れず、一気に見た夢の内容を吐き出した。
たかが夢程度で情緒不安定になっていると言われればそれまでだ。だが、奇妙な事件で知り合った陽毬と苹果には不思議な絆があった。苹果なら笑い飛ばしたり変に心配もせず、聞いてくれるという確信があった。
苹果は陽毬の話にひとつひとつ頷き、最後に軒先の雪だるまを見ると、大きく頷いた。
「ちょっと待っててね」
苹果はそう陽毬に声をかけると、玄関から出て行ってしまった。
苹果が突発的な行動をとることはよくあるので、陽毬にとっては慣れたことだった。とりあえず、潤んでしまった目元をこすり、苹果が残していった食材を冷蔵庫に入れる。
おそらくはカレーを作るのだろうからと、苹果が戻ってくるまでにある程度やってしまおうと米を研いで炊飯器にかける。
するとふいに、陽毬ちゃん、と自分を呼ぶ声がガラスをたたく音とともに聞こえた。
見ると、苹果はいつの間にか庭に出たのか、ガラスの向こうから手招きしている。
陽毬は首を傾げながら、コートと手袋を持ってきて身に着け、玄関へと急いだ。庭に回ると、苹果が得意げに仁王立ちしている。
その足元には、陽毬の雪だるまがある。その隣に、頭のほうが大きな雪だるまが並んでいた。
苹果の手が赤くなっていた。
「苹果ちゃん……」
思わずつぶやいた陽毬に、苹果が満面の笑みで微笑んだ。
「ね。これでもう寂しくないでしょ」
陽毬は再び滲んできた涙をぬぐって、うん、とうなずいた。

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