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ノスタルジア

「輪るピングドラム」の二次創作小説ブログサイトです。 公式の会社・団体様とは無関係です。

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だって私は

苹果。あなたは強いのね。

ただいま、と声をかけて玄関の扉を開く。
ほとんどの割合で応えのないことはわかっているが、もう習慣と化している。
靴を脱ぎながら、ふと違和感を覚え顔をあげる。
普段であれば家の中は真っ暗であるはずだが、廊下の先のリビングに続くドアから、ほんのりとしたあかりがもれている。
「……ママ?」
どうやら、いつも残業で遅い母が、今日は珍しく帰ってきているらしい。だが、あかりはついているものの、食卓テーブルの上の電気だけしかついていないようだ。
苹果は首を傾げながら、リビングに続くドアを開いた。
「ママ?帰ってきてるなら電気くらいつけなよ」
案の定、絵梨子が食卓テーブルの自分の席についていた。こちらに背中を向けているため、表情は見えない。
苹果がリビングの電気のスイッチに指を伸ばしたとき、絵梨子の声が響いた。
「苹果」
苹果は目を見開く。めったに聞かない、母の底冷えするような真剣な声だった。
「ちょっと、座って」
「うん……?」
苹果は訝しく思いながら、絵梨子の向かいに腰を下ろす。
母の顔には疲労の色が濃かった。いつもは綺麗に施されている化粧も崩れ気味だ。
苹果が戸惑っていると、絵梨子が大きくため息をつき、徐に口を開いた。
「会社に記者が来たわ」
その一言で、苹果は母が何を知ったのか、何の話をしようとしているのかわかってしまった。
悪趣味な腕時計をした雑誌記者は、苹果の前にも現れた。苹果の想い人である高倉晶馬の家族について、好き勝手なことを並びたてていった。思い出してもむかむかする。
絵梨子はその記者から、以前一度自宅に来た娘の知人が、桃果の命を奪った事件の犯人の家族であると知ってしまったのだろう。
「……知ってたの?」
口にしたくないのだろう、目的語を抜かした言葉でも、何を言いたいのか苹果にはわかってしまった。
「最初は知らなかったよ。向こうも、私が被害者遺族だなんて思いもしてなかったみたい。お互い気がついたのは……」
苹果の頭に、生存戦略!と叫ぶ陽毬が浮かぶが、そこまで話していると話が進まない。
「……偶然で。晶馬くんには、もう会わないほうがいいって言われた」
「そうね。私もそう思うわ」
絵梨子の言葉に、頭がかあっと熱くなり、苹果は反論しようと立ち上がりかけた。
だがその前に、絵梨子がぽそりと言った。
「これも運命だとしたら、本当に残酷ね」
幼い頃、父と口論をした母が言っていた言葉と同じだった。
絵梨子の憂いを含んだ顔に、苹果は口をつぐむ。その姿が、少し前の晶馬の姿に重なった。運命を呪い、そして呪うことに疲れた姿だ。
「ママ。私、ずっと桃果になりたかった」
苹果の言葉に、母が前髪をかきあげる。
「私が桃果になれば、失ったものが全部戻ってくるんだと思ってた。パパも、家族も、多蕗さんも。そんなわけないのに」
絵梨子の瞳が揺れた。でもね、と苹果は誇らしげに言う。
「晶馬くんは君は君、他の誰でもないじゃないかって言ってくれた。陽毬ちゃん……晶馬くんの妹さんは、一緒にカレーが食べられて嬉しいって言ってくれた」
無駄なことなんてひとつもない。全てのことにはきっと意味がある。晶馬くんたちと出会ったことにも、意味がある。
苹果はそう言うと、「私は運命を信じてるから」と微笑んだ。
「ママ、あのね。……私、晶馬くんが好きなの」
苹果の言葉に、絵梨子はじっと苹果を見つめた。
やがて大きくため息をつくと、「最初からわかってたわよ」と呟く。
「彼、いい子だものね」
「……ママ」
「先に彼の家族を知っていれば印象は違ったんでしょうけど。……これも運命なのかしらね」
絵梨子は何かを断ち切るように立ち上がると、リビングの電気のスイッチへ近寄っていく。ぱちりという音と共に、リビング全体が明るくなる。
「で、晶馬くんとはどこまでいったの?」
苹果はぐっとむせた。動揺している様子を絵梨子はいたずらっぽい目で実に楽しそうに眺めてくる。
「なあんだ。最近の男の子は消極的ねえ」
「ママ!」
「キス以上に進むときには相談してよ?」
「ママ!もう!」
苹果は顔を真っ赤にして叫ぶ。絵梨子はやっといつもの調子が出てきたらしい。苹果は火照る頬を押さえながら、ため息をついた。
「今はそれどころじゃないの!陽毬ちゃんは病気だし、記者が何か嗅ぎまわっているし……」
やっと、苹果の前でも晶馬が自然に笑顔を見せてくれるようになった。長く家族の中だけで秘密だったことも教えてくれた。
苹果は今のところ、それで十分だった。
「あなたは強いのね、苹果」
母が眩しいものを見るように苹果を見る。
苹果は自信満々に微笑んだ。
「だって私は、ママの娘で、桃果の妹だもん!」
この先どんな運命が待っていても、私は受け入れて強くなる。
晶馬くんも、陽毬ちゃんも、大切な人たちをきっと救って見せる。
苹果は決意を新たにして、手の平を握りしめた。

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