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ノスタルジア

「輪るピングドラム」の二次創作小説ブログサイトです。 公式の会社・団体様とは無関係です。

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鈍行列車は進む

晶馬。だって、それはね。

「女神様。どうして病気になったのは陽毬だったんですか。どうして罰を受けたのは冠葉だったんですか」
絶望に満ちた、自分の声が聞こえる。
口にしているのは自分のはずなのに、どこかで第三者としてその声を聞いているような、おかしな気分だった。
「罰を受けるべきなのは僕なのに。どうして、僕には何の罰もないんですか」
くすくすと複数の笑う声が聞こえる。無邪気な子どもの声が残酷に告げる。それは、黒い兎たちの声だ。
「だって!」
「だって、ねえ!」
続けて、ふふ、と耳元に息がかかった気がした。
透き通った女神の声が、理不尽な運命を告げる。
「だって、それはね――」





「晶馬くん!」
はっと目を開くと、目の前いっぱいに荻野目さんの顔があった。
「あ、あれ?わ、わわわ」
余りの至近距離に、顔が熱くなる。彼女から遠ざかろうとして、バランスを崩した身体が後ろに倒れ込んだ。
硬い座席の感触に自分が地下鉄に乗っていることを理解する。だが状況がうまく思い出せなくて、きょろきょろとあたりを見回してしまった。
幸い地下鉄の中にはほとんど人がおらず、僕の挙動不審な行動に眉をひそめる人もいなかった。
荻野目さんのため息が聞こえる。
「晶馬くん、私と下校中でしょ。私ずっとしゃべってたのに、いつのまにか相槌が聞こえなくなって、隣を見たら寝入ってるんだもの。しばらく気がつかずにひとりでしゃべり続けちゃったじゃない」
荻野目さんが頬を膨らませる。だが、彼女の瞳の中に僕を気遣う色を見つけてしまってぎくりとしてしまう。
彼女は僕の額に手を伸ばすと、前髪をかきあげる。
「……晶馬くん、ちゃんと眠れてる?隈、すごいよ。顔色もよくないし……」
僕は彼女から顔を背けると、大丈夫だよ、と返した。我ながら、頼りない返事だった。
正直に言えば、多蕗の件があってから、あまり家で眠れていないことは事実だった。
陽毬は入院中、冠葉は相変わらずふらふらと出歩いている。夕飯を作らなくても困るのは自分だけであると思うと食事を作る気も食べる気も失せた。
その癖、何もしないのも怖くて家の中を丹念に掃除をして回って時間を潰す。
けれどそうして身体は疲れて眠ろうとしても睡魔は少しも訪れてくれない。
荻野目さんといるときに眠ってしまったのは、逆にいえば彼女の傍にいることが安らぎになっているからなのかもしれない。
「大丈夫だよ、本当に。ありがとう、荻野目さん」
荻野目さんはまだ何か言いたそうだったが、彼女が降りる駅が近いとアナウンスが伝える。
ちゃんと寝てね、と彼女が手を振る。僕はぎこちなく笑いながら手を振り返した。
運命からも荻野目さんからも逃げない――そう決めた。けれど、どちらかと言えば、彼女に甘えるようになっただけのような気もする。
僕は鈍く重い頭を重力に任せて後ろに傾けた。ごつ、とガラスの窓にあたる音がする。
きっと僕は彼女が思っているよりも、荻野目さんにとても救われている。
僕は脛に傷持つ身だ。その傷は、きっとずっと誰にも見せないのだと思っていた。
彼女はいつのまにか僕の中に入ってきて、必死で隠していたその傷に寄り添ってくれた。
僕は少しずつ、彼女に傷を見せようとしている。
いいんだろうか。僕の運命に、彼女を巻きこんでしまうのではないんだろうか。
僕は救われることを望んでいるのだろうか。そんなことは許されるはずがないのに。
逃げないと決意したはずなのに、弱い僕の心は簡単に揺れてしまう。不安で仕方がない。
「どうして僕には何の罰もないんですか」
僕の呟きは、電車の揺れる音にかき消える。
「罰を受けるべきなのは僕なのに。どうして……」
こんな言い方をするのは不謹慎にも程があるのはわかっているのだが、僕にもわかりやすい罰があればよかったと思ってしまう。
病に侵されるのでもいい。取り返しのつかない怪我をするのでもいい。
罰を受けた、とはっきりわかるものがあれば、この終わりのない葛藤も区切りをつけることができたのに。
だからこそ、僕には罰は下らないのだ。
「どうして……」
電車の揺れる音だけが高く響く。
それでも、僕にだけははっきり聞こえるのだ。僕の問いも、それに答える女神様の答えも。




だって。
だって、それはね、罰を受けないことがあなたの罰だからよ。

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