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ノスタルジア

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また君に恋をする

冠葉と陽毬。名前を呼ぼうとした。

出会いは、運命と言えば運命で、偶然と言えば偶然だった。





陽毬はカフェでコーヒーの最後の一口を飲みながら、さてこれからどうしようかと思案した。
今日は友達と買い物をする予定で待ち合わせをしていたのだが、先程メールが来て急用が入ったと断られてしまったのだ。
せっかく買い物に出てきたんだし、このまま帰るよりも一人でお店を見て回ろうかな。ランチはこの間苹果ちゃんと行ったところのパスタにして。
友達の中には、一人での買い物やお店でごはんを食べることを嫌う子もいたが、陽毬はあまり気にならない。
早くに両親を亡くし共働きのおじの家で暮らしていた陽毬は、一人で留守番をすることが多く、退屈を飼い慣らす術を身につけていた。一人でも楽しく過ごす手段などいくらでも知っている。
自分はとても、待つことが得意だと陽毬は思っている。
なんだか、ずうっと前から待つことが多かったように思うのだ。自分でもうまく説明はできないのだが。
さて、コーヒーも飲んでしまったし、そろそろ行こうか、と思ったときに、近くのテーブルから怒声が聞こえた。
「何それ!?私のこと好きだって言ったのはウソだったの!?」
陽毬にはその声の持ち主の顔が正面から見えた。綺麗にアイラインをひいた、化粧が上手な少女だった。
大人っぽく見えるが、せいぜい高校生だろう。少女の向かいにいて陽毬には背をむけている少年も、高校生くらいに見えた。
先程からもめているなあ、ということには気づいていたのだが、それでも会話の内容までは聞き取れないくらいの声で話していた。だが、とうとう少女が我慢できなくなったらしい。
「嘘じゃねーけど、最近かみあってないなってのはわかってただろ?」
「かみあってなくても、まだ今の彼女は私じゃん!なんで他の女とでかけてるのよ!」
「だから、別れようって言ってるだろ」
「なっ……!何それ、勝手に決めて!」
馬鹿にしてるの!?と少女が喚く。どうやら痴話喧嘩のようだ。
最近の高校生はすごいなあ、と考えながら、陽毬は伝票を持って立ちあがった。
私には関係のないことだ。私は、化粧の上手な少女のように追いかけることなんてできない。追いかけても、怒鳴られている少年のように逃げられてしまうなら、疲れるだけだ。
陽毬がこつこつとブーツを鳴らし、少年たちのテーブルの横を通り過ぎようとした、そのときだった。
「最低!ふざけんな!」
ばしゃ、という音と共に、少女が少年にコップの水をぶちまけたのだ。
思いのほか勢いが強かったのだろう、水の飛沫が陽毬にもかかった。反射的に声が出てしまう。
声に反応したのか、少年がこちらを向いた。陽毬と目が合う。
赤い髪の、鋭く綺麗な目をした少年だった。痴話喧嘩をこんなところで繰り広げているのを納得してしまうくらい、鼻筋の通った彫りの深い顔立ちをしている。
少年の瞳が驚愕に見開かられる。唇が震え、何かを形作ろうとした。だが、それは叶わず、代わりにあわあわと口を開くと、上ずった声が響いた。
「ご、ごめん!大丈夫か」
あ、この場面でその反応はまずいでしょう、と陽毬が思うか思わないかのうちに、少女が手を振り上げるのが見えた。
ぱあんという気持ちのいい音とともに、少年の頬がみるみる赤くなる。
「今話してるのは私でしょう!通りすがりの女にまで色目使ってどこまで最低なのよ!」
一気にまくしたてると、少女は荷物を持って店を飛び出してしまった。
少女が去ったことで興味がそがれたのか、店中の視線がまばらに逸らされていく。皆がこちらに興味を失ったところで、少年が人好きのする笑みで言った。
「巻きこんじゃってごめん。お詫びさせてよ」





とりあえず、腫れた頬を冷やしたほうがよいということで、近くのコンビニで冷たい飲み物を買った。
ペットボトルを頬に当てながら「あいつ、思いっきり殴りやがって」と少年が悪態をつく。
「うーん、でも彼女そっちのけで私の心配したのはまずかったと思うよ」
「……わかってるよ。そんなつもりじゃなかったんだけど」
少年は顔をしかめると、陽毬の顔を正面から見つめた。
「あんたの顔を見た途端さ。他のことが何も見えなくなったんだ」
陽毬は面食らった。
「……そうやっていつも女の子を口説くの?」
対応に困って冗談めかして言ってやると、少年は不機嫌そうに口を尖らせた。
「ちゃかさないでくれよ。真剣に言ってるんだぜ。あんなの初めてだった。勝手に口が動いて……」
うーん、と少年は腕を組む。
「そう、咄嗟に名前を呼ぼうとしたんだと思う。それで、呼ぶべき名前を知らないんだって思ったらとにかく何か言わないとって思って」
「なるほど、そうやって相手の名前を教えてもらうんだ?」
「だから、ちゃかさないでくれよ。本当なんだって」
少年はすごい発見をして母親に報告をしたのに、たいして興味をもってもらえなかったときのようにすねてしまった。
大人びて見せている少年が年相応に見えて、陽毬はようやくリラックスしてくすくす笑った。
少年は真剣な表情で陽毬を見つめた。
「俺の名前は冠葉。高倉冠葉。あんたの名前を教えてくれる?」
「冠葉……冠ちゃんだね」
冠葉はきょとんとすると、そんな呼ばれ方初めてだ、と顔をしかめた。
「他の女なら許さないけど、あんたならいいよ」
「もう、そんなことばかり言って。冠ちゃんたら」
唇に乗せたその言い方が随分と馴染みがあるような気がした。
「陽毬よ。ひだまりの陽毬」
「ひまり……」
冠葉はその語感を確かめるように下に乗せ、深く頷いた。
「うん。……陽毬」
「呼び捨てなの?一応、私二十二よ。たぶん冠ちゃんより年上だよ?」
からかうように告げると、「ええっ」と冠葉が大袈裟に驚いた。
「同じくらいか下手したら年下かと!」
「冠ちゃん、いくつ?」
「十五。高一」
「じゃあ中学生だと思ったの?童顔だとは思うけど、さすがにそこまでは言われたことないよ。失礼しちゃう」
「うーん。本当に年上?七つも?なんかすっげえ違和感あるんだよなあ」
まあいいかと冠葉は無理矢理納得すると、「行こうぜ」と言った。
陽毬はきょとんとする。冠葉は陽毬の胸元を指差した。
「ブラウス、濡らしちゃったし。昼おごるよ」
「え、いいよ。そんな」
「このままじゃ俺の気が済まない。それに……もう少しあんたと話がしたい」
冠葉は真面目な顔をして言ったが、言った後に恥ずかしくなったらしく、小さく「気が、する」と付け足した。
思わず噴き出した陽毬に、冠葉は真っ赤な顔をして食ってかかった。
「いつもはこんなんじゃないんだ!ちっくしょ、なんか調子狂う」
「うんうん、わかったよ。ごはん行こう?」
陽毬は自分が少しうきうきとしていることに気がつきながら、冠葉と連れだって歩き出した。

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