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ノスタルジア

「輪るピングドラム」の二次創作小説ブログサイトです。 公式の会社・団体様とは無関係です。

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僕の半分

冠葉と晶馬。俺、結婚するから。

「俺、結婚するから」
「……は?」
晶馬の乾いた声に続き、おたまが床に落ちる音が響いた。




「たっかくら弟ー!久しぶりだなあ!」
受験の迫った季節、三年生の姿はまばらな校内に、親しいクラスメイトの姿を見つけて、山下は駆け寄った。
晶馬の肩に腕を回し、いつも通りやめろと言って暴れる反応を期待していたのだが、晶馬はぴくりとも動かない。
訝しく思って晶馬の顔を見るとはっきりと隈ができ、顔色も悪い。
「ど、どうしたんだよ!?あ、昨日年上の彼女とアダルトな夜を!?」
「冠葉みたいなことを言うなあ!」
晶馬は見事な右ストレートを山下の頬に決める。が、すぐに自分の発した冠葉の名前にはっとして、ため息をついて俯いた。
「冠葉……そう、冠葉……!あの馬鹿兄貴!」
「なんだよ、どうしたんだよ?また女性問題か?でも、高倉兄は彼女一筋になって随分経つだろ?」
ぶるぶると拳を震わせる晶馬に、山下が首を傾げる。
「あいつ……あいつ!結婚するって言いだしたんだ!」
どうしよう山下!と胸にすがりついてくる晶馬に、山下は頭をかいた。
「俺でよければ話聞くぜー?」
「でも、山下、本命の受験がまだだろ……悪いよ」
「だーいじょーぶだって。ちょっとくらい息抜きしてもいいだろ?」
とりあえず場所を移そう、と近くのファーストフードに誘った。
二人でハンバーガーのセットを頼み、席に着く。黙りこくったままポテトをもくもくと食べる晶馬に、山下は会話の口火をどう切るか考え、口を開いた。
「そういうえば、合格おめでと」
「ああ、うん……ありがと」
メールで合格の知らせを聞いてはいたが、直接祝いの言葉を伝えてはいなかった。
晶馬は製菓の専門学校に、特待生推薦で合格した。これで入学金免除!学費半額!とメールには記してあり、喜びはそっちが主かよ、と笑ってしまった。
「冠葉は進路どうするって?」
「本人は十分今の仕事で食えるしとか言って渋ってたんだけど、陽毬に言われて結局大学も受けるみたい……」
冠葉やその彼女の陽毬の名前を出したところで、晶馬は再び大きくため息をついた。
冠葉はちょっとしたバイト、と言ってイラストを描く仕事をしていたのだが、フリーにも関わらず仕事の依頼が徐々に増えている。
高倉家は経済的にあまり豊かではないこともあり、冠葉は仕事をこのまま続けて大学には行かないと言っていて、晶馬もでは自分も行かないといって喧嘩になったことは山下の記憶にも新しい。
だが、陽毬に「学校で学ぶことでもきっとあるよ」と言われたのが効いたらしい。冠葉は結局、美大を受けることにしたと言っていたとぽつぽつと晶馬が語る。
「で、その冠葉が?結婚?」
「そうなんだよ!」
晶馬が身を乗り出す。
「僕たち、三月二十日が誕生日なんだ」
「ああ、そうか――十八になって結婚できるのか」
事実として知ってはいても、普通の高校生として過ごしていれば十八という年齢と結婚を結びつけることはあまりない。山下ははあー、と感嘆の息をもらした。
「すげえなあ、冠葉。相手はやっぱり陽毬さん?」
「うん」
「そっか、陽毬さん年上だもんな。早く結婚したいって思っても――」
おかしくない、と言おうとして、山下はあ、と口をあんぐりと開けたまま固まった。
目の前で、晶馬がぐったりとうなだれている。
なるほど、と山下は合点がいった。
荻野目苹果、という名前の晶馬の恋人は、陽毬よりも三つ年上だ。年齢で考えれば、陽毬よりも結婚を意識するだろう。
「……なるほど。それで、荻野目さんとの結婚を考えて悩んでるのか、高倉弟は?」
「うん。……ううん。それもあるんだけど」
晶馬は再びうなだれて大きなため息をついた。これで何度目のため息かな、と山下は考えてしまった。
「小さい頃から冠葉は双子なのに僕の兄貴ぶっててさ。要領が良くていつも先に行っちゃう。双子なのにどうしてこんなに違うんだろうって思うんだ。今回のことも、僕は十八になるっていっても結婚のことなんて考えもしてなかった。それがなんだか悔しくて、冠葉に食ってかかっちゃったんだ」
結婚なんて何考えてるんだ、ふらふらよくわからない仕事して、自分の足場も固まってないのに、と冠葉に向かって喚き散らしたらしい。
「そんなこと言うつもりなかったのに……」
それに、と晶馬はますます肩を落とす。
「僕は、専門学校出て、一人前になって数年たったころに結婚、ってぼんやりしか考えてなくて。でも荻野目さんからしたら僕が学校卒業する頃三十だし、もしかしたらいろいろ考えてるのかな。だとしたら、僕の荻野目さんを思う気持ちよりも冠葉の陽毬を思う気持ちのほうが大きいんじゃないか、とかくだらないこと考えて……ますます悔しくて」
「うん」
「自分が荻野目さんのこと、きちんと考えてあげられなかったことを冠葉のせいにして……一般論並びたてて……」
どんどん暗雲をしょっていく晶馬に向かって、山下はわざとらしくため息をついて見せた。
「あいかわらず自己嫌悪ひどいな、高倉弟は!」
「ううう……だって」
「俺からしたら、お前もすごいけどな」
「え?」
「十も年上の女の人と付き合うって決めたことも、冠葉と喧嘩したのに次の日になれば反省することも、そうやって真面目に物事考えることもさ。俺にはできないね!」
晶馬は大きな目をぱちくりとさせる。
山下は机に手をついて近づくと、晶馬の肩をばんばんと叩いた。
「別に冠葉が先に結婚してもいいじゃん?後からでもお前はお前で真剣に考えればいいじゃん!」
「……うん。そう、だね――あ」
晶馬は何かに気がついたように吐息をもらすと、「ありがとう、山下」とようやく笑った。
「こんなこと、荻野目さんには相談できないし……聞いてくれてありがとう」
「いいっていいって!そうと決まれば、ほら」
「え?」
「ハンバーグ作るんだろ?冠葉と仲直りするときは。スーパー付き合ってやるから」
「ハンバーグじゃなくて、ロールキャベツ」
「似たようなものじゃないのかー?」
「全然違うよ」
ようやく自然に笑えるようになって、晶馬は山下の受験の日にはトンカツを作って持っていこう、と考えていた。





「ただいま……」
玄関の扉を開いた途端、鼻孔をくすぐった匂いに、冠葉は口元を緩めた。
「今日、ロールキャベツ?」
鞄を下ろしながら何気なさを装って言うと、晶馬が振り返らずに「そうだよ。手洗ってきてよね」と返してくる。
洗面所で手を洗い、ちゃぶ台の前に腰を下ろすと、既に湯気をたてたロールキャベツが置いてある。
エプロンを外した晶馬が箸を持ち、いただきます、と言いかけたところで冠葉は口を開いた。
「陽毬に、さ。怒られたよ」
「……え?」
「晶馬の言う通りだって。まだ安定した収入もないのに、未成年だから父母の同意もいるのに、受験も終わってないのに。結婚だなんて勝手に決めるなって」
「って、陽毬と話し合って決めたんじゃなかったのかよ!?」
「ああ。ただ、俺の決意を言っておきたかったっていうか……」
「この、馬鹿兄貴!なんだそれ!本気にした僕が馬鹿みたいじゃないか!ロールキャベツ没収!」
「ああっ!何すんだよ!」
晶馬はロールキャベツの入った器を頭上に高々と掲げた。冠葉が箸を持ったまま、口を尖らす。だが、晶馬の目が潤んでいることに気がついて、はっとした顔をする。
「……晶馬?」
「僕、寂しかったんだ」
「え」
「冠葉が結婚するって言って、いろんなこと考えたんだけど、結局、冠葉が陽毬と家族になるってことが寂しかったんだ!」
叫んだあと、晶馬が器をことりとちゃぶ台の上に置いた。
「僕だけ、ひとりぼっちになるみたいで」
「……晶馬」
「子どもっぽくて、嫌になる。だからロールキャベツ作って、ちゃんとおめでとうって言おうって!思ってたのに!」
晶馬はぐすりと鼻をすすると「詐欺だ!こんなの!」と叫んだ。
冠葉は苦笑すると、晶馬の髪をくしゃりと撫でた。
「違うだろ」
「え?」
「俺と、晶馬が家族で。俺と陽毬が結婚するってことはそこに陽毬が増えるってことだ」
そのうち荻野目さんも加わるのかもな?と冠葉がにやりと笑って付け加えると晶馬は顔を真っ赤にした。
「……わかんないよ、まだそんなの!」
「いいじゃねーか。大勢のほうが楽しいだろ?」
「また勝手に無責任なことを……ほら、冷める前に食べるよ!いただきます!」
晶馬がロールキャベツに箸をつける。冠葉も負けじと箸を伸ばしながら、先程まで陽毬との会話を思い出してみた。
「冠ちゃん、今結婚しようなんて言われても嬉しくないよ」
「なんでだよ」
正直言って、陽毬は二つ返事でオーケーしてくれると思っていたのだ。それを嬉しくないとまで言われて冠葉は思わず不機嫌な声で返してしまう。
「冠ちゃんさ、晶ちゃんより一歩先に行ってたいだけでしょ?」
「は?」
「晶ちゃんのほうが進路決めるの早かったから、焦ったんでしょ。大学行かないなんて言って、次は結婚するって言ってかき回して、子どもっぽいよ?」
「なっ……」
「否定できる?」
「……」
陽毬は未だに高校生に間違われるくらい幼い容姿に似合わず、辛辣に言う。
「……でも、俺は。少しでも早く陽毬と一緒にいたいと思ってるのも本当なんだ」
「私もだよ」
陽毬の言葉に、冠葉の頬がさっと赤くなる。思わず陽毬を見つめると、陽毬は優しく微笑んでいた。
「気持ちが一緒なら、いいじゃない」
もう少しゆっくり考えよう、と言う陽毬に冠葉は頷くしかなかった。
晶馬に、負けたくないという気持ちがあるのは事実だ。
要領が良く、何でもうまくこなす冠葉だが、晶馬は不器用ながらも一生懸命にやって物事を達成していく。
晶馬は冠葉のことをずるいと言う。だが、晶馬は気が付いていないようだが、そういう自分にない相手のところに憧れているのは晶馬だけではない。お互い様なのだ。
「ま、絶対言わねーけど」
「何?」
「何でもない」
冠葉はロールキャベツと一緒に、今考えていたことも呑み込んでしまうことにした。

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