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ノスタルジア

「輪るピングドラム」の二次創作小説ブログサイトです。 公式の会社・団体様とは無関係です。

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君には敵わない

晶馬と苹果。愛してるって言ってくれない。

「陽毬ちゃん!今晩付き合って!」
仕事が終わるのを見計らったかのようにかかってきた電話に、陽毬は「いいよ」と柔らかく答えた。
さて、今日の理由は何かな。会社の上司だろうか、プレゼンが通らなかったのだろうか、それとも。考えを巡らせながら「どこで飲む?」と聞く。
苹果の口から、こじんまりとした店ながら、おいしい日本酒を出す居酒屋の名前が出る。
ああ、これは晶ちゃん絡みだな。
陽毬は到着する時間を確認しながら思案した。その店は苹果が特に思い切り飲みたいときに使う店なのだ。
陽毬と苹果は、それぞれが中学生と高校生のときに出会った大切な友達だ。同じ電車で倒れていたのに、原因を覚えていないという不可思議な体験をした者同士、ということもあるのか、二人でいるととても落ち着く関係だった。それは、社会人になった今でも変わらない。
そして、もうひとつ二人の間にはつながりがある。陽毬の恋人の冠葉と、苹果の恋人の晶馬は双子の兄弟なのだ。
別々のところで知り合ったので、紹介したときにその事実がわかった時には驚いたものだ。
「運命……なんてね」
さて、晶ちゃん、何をやったのかな。お姉ちゃん、許さないぞ。
陽毬は同僚たちに声をかけると、軽い足取りで待ち合わせ場所に向かった。





「愛してるって言ってくれない?」
おうむ返しに返した陽毬に、苹果はこくりと頷いた。
「会社の後輩の女の子たちが言ってたの。彼氏がシャイで愛してるって言ってくれない、荻野目さんの彼氏はどうですかって。そういえば言われたことないなあって」
苹果は箸で刺身をつつきながら言う。
「軽い気持ちで言ってみたのよ、愛してるって言ってみてって。そうしたら」
「そうしたら?」
「そんなこと言えるかよおーって顔真っ赤にして逃げちゃった。それはそれで可愛かったんだけど!」
テンションが急に上がった苹果は、すぐにしゅんとなると「結局言ってくれなかった……」と俯いてしまう。
「私もムキになっちゃって、絶対言わせてやるって思ってしつこく食い下がったら、向こうも頑なになっちゃって。変な雰囲気になって……」
「うーん。高校生にはハードルの高い言葉かもね」
陽毬は言葉を返しながらも、もぐもぐと刺身を口に運ぶ。
苹果はテーブルに突っ伏しながら、恨めしそうに顔をあげた。
「でも、冠葉くんはけっこうさらりと言えちゃいそうじゃない」
「うん、そうだね。でも私と付き合う前は、他の女の子にもカンタンに言ってたらしいからなあ」
「えっ。陽毬ちゃん、それでいいの!?」
「よくないよ」
陽毬はにっこりと背景に花でもあるかのように微笑んだ。
「現場を押さえて、『冠ちゃん、誰にでもそういうこと言っちゃうんだね……』って言って俯いたら、言い訳して機嫌取ろうとして何でもしてくれたよ」
ちょっと目を潤ませて、でも涙は見せずにこらえているようにするのがポイントだ。
苹果は呆れたように「本当、冠葉くん、陽毬ちゃんには弱いよね……他の女の子にはあんなに強気なのに……」と呟いた。少々冠葉に対する同情が入っているような感じもある。
陽毬はふわふわとした雰囲気に、いかにも女の子、といった格好をすることが多いことから周囲からは可愛らしい女の子だと勝手に思われることが多い。
だが、自分で言うのも何だが、陽毬は自分のことをけっこうしたたかだと思っている。
冠葉のことを好きな女の子たちはそういうところを見抜いてきて、割とはっきりと憎まれることも多い。
特に冠葉に執着している真砂子という女性に指摘されるまでは自分で自分のそういうところに気が付いていなかった、あるいは気がつかないふりをしてきたのだが、冠葉と付き合うと決めてからは開き直っている。
その点、苹果は純粋に、とても素直で可愛らしいと思う。
たまに行動がエスカレートして誰にも止められなくなるが。
「どうしたら元に戻れるかなー。でも、原因がはっきりしているわけじゃないから謝るのも変じゃないかとかいろいろ考えちゃって」
苹果が額をテーブルに完全につけてしまう。
十も違う歳の差があること、自分のほうが年上であること、しかも相手が高校生であること。いくら猪突猛進な苹果であっても、障害の多い恋愛に不安が尽きないらしい。
私から謝ったほうがいいよね、やっぱり、と呟く苹果に、陽毬は耳元で囁いた。
「それでいいの、苹果ちゃん」
「え?」
「ここで謝ったら、晶ちゃんずっと愛してるって言ってくれないかもよ。本当はやっぱり言ってほしいんでしょ?」
「う……そうだけど」
「荻野目さん!」
がらりと戸が開く音と共に、私服になぜかエプロンという姿の晶馬が息を切らして立っていた。店中の視線が晶馬に注がれる。
「え……ええ!?」
「お、荻野目さん、あれ!?」
「遅いよー、晶ちゃん」
陽毬は胡乱な目で晶馬を見た。冠ちゃんならどこにいたって十五分以内に駆けつけてくれるのに、と呟くと、晶馬は険しい目で陽毬をにらんだ。
「ひーまーりー!図ったな!何が荻野目さんが酔っ払っいに絡まれて連れていかれそう、だよ!」
晶馬が携帯の液晶画面に表示したメールを突き付ける。陽毬は無視してふいっと視線をそらした。口をとがらせて言う。
「未来のお姉様に向かってその口調はないんじゃなーい?」
「ああー、もう、冠葉はなんだってこんなやっかいな人を!本人だけでもやっかいなのに!」
晶馬はぐしゃぐしゃと髪をかきむしると、苹果の腕をつかんだ。
「しょ、晶馬くん」
「帰るよ!飲みすぎだよ。明日も仕事あるんでしょ?」
「で、でもお酒ばっかり飲んでごはんまだあんまり食べてないし」
「家でお茶漬けでも作ってあげるから!」
そう言って晶馬はずんずんと歩いていく。戸を開け、外に出る直前、陽毬のほうを見たかと思うと「ありがと」と唇が動いた。
こういうところが憎めないのよね。
陽毬はひらひらと手を振って二人を見送ると、携帯電話を取り出した。呼び出し音が鳴るか鳴らないかのうちに相手が出る。
「ああ、冠ちゃん?実はちょっと、今夜の相手にふられちゃって。……ふふ、その沈黙、何考えたの?苹果ちゃんだよ。わかってたよって……声震えてるよ?相変わらずだなあ、冠ちゃんは。うん、そう。晶ちゃんに取られちゃった。なんかまた喧嘩したみたいだよ。でも大丈夫だよ、冠ちゃんと違って晶ちゃんは決めるときは決めるから。……ええ?だって冠ちゃんは肝心なときにずれてるっていうか。あはは。まあ、そういうところが好きなんだけど。……うん。うん。じゃあ、待ってるから」





「晶馬くん、腕、ちょっと、痛い」
晶馬が歩くのが早く、苹果を強く引っ張るかたちになってしまっていた。晶馬が無言で手を放す。
なんとなく、二人、道端に立ちつくすことになる。
苹果は解放された腕に視線をやり、次に背中を向けた晶馬の、先程まで自分の腕を握っていた手を見つめる。
急にぞくりと悪寒が走った。
胸の中からせり上がる感情の名前がわからない。焦燥感に近いそれに突き動かされ、何も考えないまま、苹果は思わず晶馬の手首をつかんでいた。
「……何なんだよ!放せって言ったのにまた掴んできて」
「ご、ごめん。でも、なんか……」
放してはいけない気がしたのだ。
戸惑ったまま晶馬を見上げた苹果の顔が、滅多に見ない不安気な表情をしていて、晶馬は更に文句を言い募ろうとしていたのをぐっとこらえた。
はあ、とため息をつく晶馬の口から白い息があがるのを見て、苹果はようやく晶馬が上着を着ていないことに思い至った。
「晶馬くん、上着は?」
「急いで来たからそんなこと忘れてたよ」
「エプロンのまま地下鉄乗ったの?」
「え、ああ!」
晶馬は気がついていなかったようで、あたふたとエプロンを外す。
「ごめんね。夕飯作ってたの?」
「……ロールキャベツ」
「え?」
「ロールキャベツ、作ってる途中だったんだよ!」
顔を真っ赤にして晶馬が言う。ロールキャベツは、晶馬が双子の兄の冠葉と喧嘩をしたときに、仲直りの印として作るものだと聞いたことがあった。
もしかして、と苹果が呟くと、晶馬の瞳が泳いだ。やがて、苹果の目を捕らえると恥ずかしげに見つめた。
「……この間は、意地張っちゃってごめん。冠葉に言われたよ。女は言葉が欲しいんだって。荻野目さん、年上だとかで不安なんだから、それくらい言ってやれよって」
「いいのよ、もう」
「よくないよ」
晶馬が苹果の肩を掴み、顔を近づけた。
「い……言うよ」
「う、うん……」
晶馬の顔がみるみる赤く染まっていく。口がぱくぱくと開いて、「あ」の形を作ったまま、その続きを言えないでいる。
「あー、あああ、あいっ」
「……」
「ああ、あー……。……ごめん。言えない」
晶馬はぱくぱくと口を何度も動かすが、声が出てこない。
「どうしてだか、わからないんだけど……言えないんだ。この間もそうだった。好きだとか、大好きだとかなら言える。でも、この言葉だけ、どうしても」
そう言いながらも晶馬はまた挑戦しようと口を開閉する。
苹果はしばらく晶馬の顔を見つめて息をつめていたが、必死になってどんどん赤くなっていくだけの晶馬の顔を見ているうちに、馬鹿らしくなってきた。
「あー、あいっ」
「いいわ、もう」
「え?」
「晶馬くん、愛してる!」
苹果の言葉に、晶馬の顔がさらに火照る。
「おおおおおお、荻野目さん!?」
「晶馬くんが言えないなら、私が言えばいいのよね!」
何回も、何度でも。あなたが嫌って言うほど言ってあげる。
そう言って身を翻した苹果は、道端の電灯しかないのに、晶馬にはとても眩しく見えた。
――ああ、そうだ。いつだって、僕は君には敵わないんだ。生まれる前からそう決まってる。運命だったんだ。
晶馬はそう思うと、微笑んだ。
生まれる前のことなんか知らないのに、さて、どうしてこんなに懐かしい気持ちになるんだろうと思いながら。

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