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ノスタルジア

「輪るピングドラム」の二次創作小説ブログサイトです。 公式の会社・団体様とは無関係です。

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初恋

苹果の娘。やっぱりあなた、私の娘だわ。
苹果ちゃんにもしも記憶が残っていたら。

「何かあったなら話しなさい」
ママが言った言葉に手が止まる。今まさに口に入れようとしていたにんじんが、再びルーの中に落ちて行く。
「……なんで?」
問いかけはなんで話さなければならないのか、という意味ではない。なぜ、何かあったということがわかるのか、という意味だ。
そんな省略した問いかけでも、私の意思は伝わるらしい。
ママは口元を優しく笑みの形に変えた。
どうしてだろう。どうしてこの人には、私のことがすべてわかってしまうんだろう。
私はあきらめてスプーンを置いた。
今日は大好きなカレーだったけれど、ちっともおいしくなかった。
きっと味はいつも通りだ。お母さんが自分と同じ名前の果物を隠し味にして作ったカレー。月に一度、このカレーが食べられる日は私にとって楽しみにしている日なのだ。
なのに、今日学校で起こった出来事はその味わいを台無しにするには十分だった。
「たいしたことじゃないんだけど」
「うん」
「今、ちょっといいなあと思ってる男の子がいてね」
私はぽつりぽつりと今日あったことを話す。
ママがそれを聞きながらうん、と相槌を打ってくれる。
「彼と私、少し噂になってて。実際は何でもないんだよ。でも、それをからかわれたの。そうしたらあいつ、あんなやつ好きじゃねーよって……」
言っていてまた悲しくなってきた。視界がぼやける。泣いても仕方ない、と思えば思うほど、熱いかたまりが目元にたまる。
しゃくりあげそうになったとき、ママが音をたてて椅子から立ちあがった。
「何よ、それ、完全に脈ありじゃない!」
「へ」
「意識しすぎて意地を張るなんて、あなたたちの歳じゃよくあることよ!さあ、さっさと真意を質しに行くわよ。彼の名前は?電話番号は?住所は!?」
「じゅ、住所!?」
「あとをつければすぐわかるわ!さあ!」
ストップストップ、とヒートアップしてきたママをなだめる。私のママは、驚くほどポジティブでフットワークが軽いのだ。というか、軽すぎる。
ママは不満そうに唇をとがらせた。
「もう、あなたはそういうところ、全然私に似てないわよね。常識的で、冷静で、ちょっとネガティブ」
「余計なお世話。ママは奇想天外すぎるよ」
「お父さんともちょっと違うし。誰に似たのかしらね」
ママが頬に手を当ててため息をつく。そんなの、私が聞きたい。
さっき慌てたせいで、涙は引っ込んでしまった。
私はひとつ息を吐くと、ねえ、とお母さんに問いかける。
「ママの初恋ってどんな人?」
「え?」
ママが少女のように目をぱちくりと瞬かせた。
「今はあなたの初恋の話でしょ?」
「初恋じゃないよ、ちょっといいなと思ってるだけだってば!」
無駄な抵抗と思いつつ、私は必死で否定した。
まだ初恋だとは認めたくない。今日の彼の言葉が本心なら、望みはなくなってしまう。
私は望みがないとわかっているのに恋を認めるほど強くはなかった。
そう思っている時点で認めてしまっているような気もするのだが、それは考えないことにする。
ママは娘の私から見ても強い人だ。
いつもぴんと姿勢よく立っていて、仕事にも家庭にも全力投球だ。
さっきのように、猪突猛進すぎて困った事態を引き起こして、私や父を振り回すこともよくある。けれど、私にとっては自慢のママだ。
物心ついた頃にはママは今のママだった。ママが今の私のように仕様のないことで悩んだり泣いたりしている姿は思い浮かばない。学生の頃の話を聞いたこともない。
だから気になったのだ。
「聞かせてよ。今後の参考のために」
身を乗り出した私を、ママが見つめた。
ふいに、いつも輝いている瞳が一瞬陰った。どきりとして身体を引っ込める。
ママはすぐにいつもの様子に戻り、困ったように目じりを下げた。
「……私の初恋の人、か」
遠いところを見るように言う。
そんなママは初めてだった。
「そうねえ。よーく見ると顔は整っているんだけど、平凡って感じの人だった。料理がとても上手だったけれど、それ以外はあんまり器用にこなせなくて」
「……ふうん」
「でも、とても優しい人だったわ」
お父さんとは重なるところもあるし、重ならないところもある。いまいちピンとこなかった。もう少し具体的な話はないかと私は質問を続ける。
「告白はしたの?」
予想以上にママが勢い込んで答えた。
「したわ。したわよー。情熱的にね!私はあなたのストーカーだから、って」
「ええ?それ引くよー!」
お母さんは彼の学校の前で待って地下鉄で一緒に帰っただとか、彼の家に通い詰めただとかを熱く語り始めた。
私にできたのは、変わってないんだね、と呟くことだけだった。
思ったらすぐに一直線に行動してしまうところは、昔かららしい。
「相手はやめてくれとか言わなかったの?」
「言われたわよ。彼は頑固で、最初は手ひどく拒絶されたわ。でもそれであきらめてしまったら、信じてもらえないもの。私が本気だってこと」
そう言いきるママは凛としていた。
やっぱりママはかっこよくて美しい人だ。
すごい。私だったら、もう近づかないでくれとか、もうやめてくれなんて言われて、追いかけることができるだろうか。
「すごいな、ママは」
思わず口に出ていた言葉に、ママがゆるく頭を振った。
「全然、すごくなんかないのよ」
え、と声をあげる暇もなく、私はママの顔を見て言葉を失っていた。
ママは泣いていた。あまりにも静かに流れていた涙が、頬を伝った。
ママの涙を見るのも初めてだった。ママはけっこうドライで現実的なところがあって、泣けるドラマも映画も、陳腐だとかありきたりだとか言って鼻で笑って済ませてしまう。
「ど、どうしたの、ママ」
「すごくなんかない。全然、すごくなんかないの」
私はおろおろとしながらも席から立ってママに駆け寄った。どうすればいいのかわからない。
「泣かないで、ママ。ママ、いつも言ってるじゃない。どんなに悲しいこと、辛いことにも意味はあるんでしょ?」
だから、受け入れて強くなりなさい。
昔から、嫌なことがあって泣いて帰ってきたときに、言われていた言葉だ。
本当は、少しその言葉には納得がいっていなかった。だって世の中には意味がないと思える悲しいこと辛いこともいっぱいあるからだ。
だからこそ、それを受け入れられるママをすごいと思うのだ。
「ねえ、その人はママにとって意味がないことだったの?」
ママがううん、と言って涙を拭った。
「そんなこと……ないわ」
「でしょ」
私はお母さんがふわりと微笑むのを見て安堵した。
やっぱり、どんなに行動が突拍子もなくてもお母さんは普段のままのほうがいい。
「でも、その人、ママを泣かせるなんてひどい人ね。私が一発殴りに行く!」
私が拳を握りしめて言うと、ママが吹き出した。
「やっぱりあなた、私の娘だわ」

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