しりとりをする晶苹。
今日は陽毬の病院の検査の日だ。もう身体的には何の心配もないのだが、数か月に一度、念のために診てもらっている。
兄貴は付き添いで学校を休んだ。先程、僕の携帯に検査の結果が異常なしであったと連絡があって、ほっと胸を撫で下ろす。
駅で荻野目さんと落ち合って、荻窪へ降り立つ。今日はお肉の特売をやっているスーパーに向かい、買い物を済ませた。
「えーと。ダック!アヒルね」
「く……管」
「ええ、また『だ』!?」
帰り道、なんとなく始めたしりとりは、家に着いて夕飯の準備をしてもまだ続いていた。
ただしりとりするだけではつまらないと言って、今日の洗いものをどちらがやるかを賭けることにした。
僕は今日、学校で長文英語の和訳の宿題が出ているので、是が非でも勝ちたいところだった。
「晶馬くんの意地悪!さっきから『だ』ばっかりじゃない!」
「思いつかないなら降参しなよ」
「ううう……」
荻野目さんは洗い物をどうしてもしたくないと言うより、単純に負けを認めるのが嫌なのだろう。
むむむと考え込む姿が微笑ましくて、少し口元がにやける。冠葉も陽毬もいなくてよかった。
「だー、だー、あ!段差!」
「さ、ね」
僕はキャベツを千切りにしながらさがつくものを考える。
ふと、目の前にある野菜を見て思いつく。
「サラダ」
「ああ、もう!だ、だー……」
荻野目さんが眉間にしわを寄せながら考える横顔を、そっと観察する。
すると、彼女がふいにぱっとこちらを見た。満面の笑みだ。
「大好き!」
その言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。
そして一気に顔に熱が上がってくる。
どうだ、という顔をした荻野目さんを見ているうちに、彼女の肩をつかんで顔を寄せていた。
「え、晶馬」
くん、と続くはずだった唇を塞ぐ。
すぐに離すと顔を見られなくて目線を外しながら言った。
「キス」
「え」
彼女の顔も赤くなっていく気配がする。
僕は「次、『す』だよ」とぼそぼそと言った。けれど、何の説明にもなっていなくて我ながら恥ずかしい。
ああ、もう洗いものも勝ち負けもどうでもいいや。僕はいつでも君には敵わないんだから。
「好き」
「え」
「ほら、次『き』よ。もう一回同じの!」
「は、はあ!?いや、同じの言ったら僕の負けだし……」
「そういう問題じゃないの、わかるでしょ!」
「いやだめだって!わ、わかった僕の負けでいいから!洗いもの僕がするから!」